「単の 羽織 なら縫えるかもしれない。」
きっと浴衣や単着物を何枚か縫った人ならそう思うだろう。
いざ羽織に取り掛かってみると
案外着物と同じだったり、着物と全く違ったり
面白い発見がたくさんある。
今回は、プロの仕立て屋が見る、“着物と羽織の違い”について解説しようと思う。

羽織 の特徴① 独特の言葉
羽織にしか使わない言葉は2つ。
・襠(マチ)
・乳(ち)
羽織のほかコート類に使う言葉が2つ。
・前下がり(まえさがり)
・掻き落とし(かきおとし)
この4つが新しい用語として加わる。
襠(マチ)とは
前身頃と後身頃の間に細長い台形をした布が一枚ある。
これを「襠」と呼ぶ。
襠巾は、男女で違い、女性の標準寸法は、「上5分・下1寸5分」というように
上と下で巾が異なる。
乳(ち)とは
羽織紐を通すために小さなループ。
羽織紐は着用した時、帯の上線と帯締めの間に来るのが理想を言われ
お客様ごとに調整をするという話はよく耳にする。
前下がり (まえさがり)とは
着用した時、羽織の裾が地面と並行になるよう
後身頃よりも前身頃を長く仕立てる。
これを「前下がり」という。
使い方は、「前下がり、付いてる?」とか「前下がり1寸で仕立てて」とか。
掻き落とし(かきおとし)とは
前身頃の布を縦方向に一定の巾で切り落とすことを「掻き落とし」という。
羽織の場合は、この切り落とした布が襠と袖口布になり
道行コートの場合は、小衿になる。
羽織 の特徴② 仕立て方の違い
特徴的な違いは2つ。
衿折り(えりおり)と 裾返し(すそかえし)
衿折り(えりおり)とは
羽織にのみ存在する「衿折り(えりおり)」
羽織の衿は、見えている部分は少しだが、広げると反物巾になる。
反物巾を折り紙の要領で、指定された襟巾になるよう折っていく。
出したい柄があれば、うまく出るよう調整しながら折る。
これを「衿折り(えりおり)」と言う。
裾返し(すそかえし)とは
表身頃の布が出来上がりの裾を超えて裏にまで続いている。
この裏の部分になる表生地を「裾返し(すそかえし)」と言う。
全ての着物やコートに裾返しはあるが、羽織はその量が多い。
羽織 の特徴③ 寸法の違い
着物の寸法を基準に羽織の寸法を割だす、と言うのが一般的だ。
羽織の寸法はどれも特徴的だが、ここでは、袖丈・身八つ口・身巾の3つに注目した。
袖丈の寸法
着物の袖丈が1尺3寸の場合、羽織の袖丈は1尺2寸5分で作る。
着物よりも5分程度短くする。
これには理由がある。
衣紋を抜いて着物を着た時、袖山が身体の肩よりも背中側にあり
袖底と袖口が腕の後側でたるむ。この分が短くなっているためだ。
身八つ口の寸法
着物の身八つ口が3寸5分〜4寸なのに対して、羽織の身八つ口は2寸5分〜3寸。
着物よりも小さいと言うのが特徴。
身巾の寸法
身巾とは、前巾と後巾の両方を指した言葉。
特徴は、羽織の後巾は着物よりも狭く、前巾は“成り行き”で決めていると言う点。
なんとも曖昧だが、後巾は羽織の丈が長くなるほど狭くなり、
前巾の成り行きとは、脇線・衿付けラインの印付けをした結果前身頃に残った巾を前巾とする…
前巾の説明はしずらい。
簡単に言うと、前巾を具体的な数字で指定することは無いということだ。
これは、あくまでも基本の話であり、こだわる場合は寸法を指定する。
まとめ
羽織の特徴についてザッと解説をしてみたが、いかがだっただろうか。
よく見ると着物と違う部分がたくさんある。新しい用語に触れるのも楽しい。
仕立ててみると、またその違いが面白いと思う。
羽織が好きな人、嫌いない人、色々あると思うが、
私は羽織が好きだ。車移動が多い私には丁度良く、さっと羽織れる手軽さに魅力を感じている。
羽織を羽織るという事で、かしこまった印象を表現することもできる。
慶事・弔事、年齢と共に、移動中に羽織るものが欲しいと思うようになってきた。
そんな時にも羽織は丁度良いだろう。
ぜひたくさんの人に羽織を好きになってほしい。
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