衽下がりの寸法は、変えても良いのか?衽下がり5寸の着物を仕立てました。

衽下がりの標準寸法は、肩山から6寸。

しかし以前、繰越0の着物を仕立て上げ、着用した際
衽下りは、短い方が衿は安定するのではないか?」と言う、仮説をたてました。

今回は、実際に衽下りを短く仕立て、着用した結果をお伝えします。

仕立て寸法

  • 身丈 4尺3寸
  • 裄 1尺8寸
  • 袖巾 9寸3分
  • 袖付け 6寸
  • 身八つ口 4寸
  • 前巾 6寸3分
  • 後巾 7寸8分
  • 抱巾 通し
  • 衽巾 4寸
  • 合褄巾 3寸7分
  • 褄下丈 2尺1寸5分
  • 衽下り (肩)5寸
  • 肩明き 2寸4分
  • 繰越 5分
  • 衿付け 3分

身丈、身巾などは、特に大きな変更をせず衽下りのみを標準よりも1寸短くしました。

なぜ衽下がりを5寸にしたのか?

理由①どこまで短く出来るのか

3年前、衽下り(肩)4寸5分の長襦袢を仕立てました。
すごく着やすく、衿も安定します。
この実体験をもとに、長襦袢よりも衽下がりを短くすることは、着姿の理にかなわないため
長襦袢(4寸5分)+5分としました。

理由②標準寸法と比べて、見てわかるほどの違いにしたい

標準が(肩)6寸であるのに対し、違いが分かるほど寸法を変えなければまた意味が無いと思います。
1寸以上短くする事で、着用したときに違いが見えると考えました。

理由③昭和45年の寸法

昭和45年の和裁の本を見ると、標準寸法として「肩明きから5寸5分~6寸」とありました。
今回の寸法は、肩明きから5寸5分(昭和45年の標準寸法)となります。

理由④昭和45年の標準寸法にする意味はあるのか

昭和45年、身丈の標準寸法は、155㎝~160㎝と記載がありました。
私の身長は、165㎝です。
当時の標準身丈よりも高い私が、衽下がりを当時の標準寸法である「肩山から5寸」にするということは
標準よりも高い位置に「剣先(けんさき)」が来ることになります。

今回、標準よりも高い位置に剣先を持ってくる事で、どのような変化があるのか
を見える化したいので、そのような寸法になると思います。

理由⑤繰越0を着用したときの位置

繰越0を着用したとき、衿合わせがビックリするほどピッタリとし、気持ちが良かったので
同じような位置にしたいと思いました。

左:繰越0・衽下がり6寸、右:繰越5分・衽下がり5寸
繰越が無いと衣紋は抜けないのか?!繰越0の着物を仕立てました。
繰越はどんな働きをしているのか?繰越の無い着物を仕立てて着用しました。

着てみた感想

衿横に入るシワが軽減された

剣先を高くしたことで、衿横に入る縦方向のシワが軽減された気がします。
「気がします」というのは、そう感じたけれど、実際に衽下がりを短くした効果なのかは、断言できません。

衿の安定感が増した

肩山から剣先にかけて、衿と言う橋が渡っている、と考えると
距離が短くなる分、鎖骨などによる身体の凹凸から受ける影響を軽減できていると実感しました。
剣先と肩山で、衿が張っている感覚があります。
これは、前の項目「衿横のシワ」の軽減に繋がっていると思いますが、シワを軽減させる
要因の一つに過ぎないと思います。

肩明きを1分広くした感想

通常2寸3分で仕立てていますが、今回、初めて2寸4分で仕立てました。
肩明きの1分は、すごく大きな1分でした!
着た瞬間に、いつもと全く違う衿の感触です。
背中心から肩山にかけて、衿がいつもより外回りに沿っていく感覚が、着ているときから、あります。

抱巾の位置を変えると、脇のダブつきは軽減できるのか⁈抱巾広めの小千谷縮を仕立てました。
抱巾が1番ポイントの着物ですが、肩明きをいつもより1分大きく切った着物です。首回りの衿に注目です。

抱巾について

今回前巾6寸3分と同寸の、抱巾6寸3分で仕立てました。
バスト88㎝なので、計算からすると良い寸法ですが、私の衿合わせの好みからすると
かなり着心地が悪かったです。
原因は、抱巾以外にもあり、総合するとバランスの悪い寸法だったのだと感じました。

左:衽下がり6寸・抱巾6寸5分・繰越5分、右:衽下がり5寸・抱巾6寸3分・繰越5分

衽下がりを短くして変わったこと

確実に言えることは、「衿の安定感」として、肩山から剣先までの距離が短くなったことで、衿に張りが生まれ、
鎖骨などの身体の凹凸の影響を抑えることができました。

まとめ

衽下がりは、短くしても着用可能と言うことが分かりました。
どのくらい短くすると良いのか、という問いには、
どのくらいの繰越で、どのくらいの衣紋を抜いているか、で変わります。

私が目安にしているのは、衿合わせの延長に剣先が来ているかどうか。
剣先がそれよりも上ににあれば、衽下がりが短めとし、剣先よりもそれよりも下にあれば、長めとしています。

衽下がりの位置を変えることで、「衿合わせをしやすくできる」と思っていましたが
抱巾とのバランスが悪いと、衽下がりの位置を変えたところで着心地は良くならないことが分かりました。

ー余談ー
今回、緞子の生地で仕立てました。
緞子は、光沢があり、重厚感もあり、とっても素敵ですが
重くて、よく滑り、着るのが難しかったです。
なので、着用画像見ていただくと分かりますが、着付けが下手です。

課題

抱巾6寸5分の着物で、衽下がり「肩山から5寸」の着物で検証し、今回よりも
衿合わせの着心地が良くなるのか確認する。(肩明きを2寸3分とすること。)

着用画像

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次回、2024年9月29日 東京にて着物の寸法講座を開催します。

この記事を書いた人

KOTARO

現役和裁技能士が「仕立てと着姿」をテーマに、どんな寸法で、どんな仕立てをすると、どんな着姿になるのか、自分自身の身体で検証しています。